2012年3月8日木曜日

思い出の先生方(興津先生編:その3)

「まきこまれたらエエんや!」
   近畿大学経営学部(およびその前身の商経学部)は,会計関係の学会を数多く開催している。私はもうすぐ大学教員17年目を迎えるが,少なくとも4回は学会で近大にお邪魔した記憶がある。おそらく,そのほとんどは興津先生の決断で行なわれたのではないかと思う。
  学会の大会・部会を積極的にやってやろうという大学は少ない。準備が面倒であるし,また費用もかさみ,たいていの学会は物心両面ともに主催校側教員の持ち出しで成り立っているためであろう。しかし,大会・部会を開催しないわけには行かない。どうしたものかと思案に暮れたときには興津先生が,「うちでやったらええがな」と引き受けてくださった結果であろう。
   もちろん,興津先生お一人で学会をするわけにはいかず,当然同じ大学におられる先生方の協力が必要である。先生方の中には,「またですか」と心の中で思われた方もおられたかも知れないが,少なくとも私は,後継者のU先生はじめ近大の先生方からそのような不満をお聞きしたことはなく,どの大会・部会もすばらしい運営であった。これも興津先生の人徳であろう。
   一昨年の夏,京都産業大学で日本簿記学会第26回大会を開催した。この大会は,興津先生が同学会の会長になられた際,前任校のT大学で私が引き受けていたものであったが,私が移籍したために京都産業大学で開催していただくことになったものである。
  この話は,その懇親会から興津先生を宿舎にお送りする車中であったと思う。同乗者は運転する私の他,興津先生とその高弟ともいえるT先生,そして私の同僚のI先生であった。I先生には学会を開催するからと,急遽,簿記学会に入会してもらったばかりであったが,いきなり大会の事務全般を仕切ってもらうことになってしまっていたのである。
   私は助手席のI先生に,「Iさん申し訳ないね。こんなメンバーで同乗するなんて4月までは思ってなかったやろ。私が京産大に来たばかりにいろいろまきこまれて悪いね」と冗談めかしたが,興津先生は後部座席からすかさず「まきこまれたらエエっ。まきこまれたらエエんや!」と一喝した。それを受けてT先生も「そうそう,まきこまれたらエエんよ。私もそうやった」と受けたものだから,われわれはただ,はぁというしかない。
   興津先生らしい言い回しである。向かってくる困難や厄介ごとにひるまず,逆にチャンスと捉えて積極的に取り組め,そうすれば必ず道は開かれる。「まきこまれたらエエんや!」にはそんな興津先生の思いが込められていたはずである。興津先生にとって「まきこむ」は「見込む」である。そして実際,そのような積極性を持った,時には愚直な,と思わせる若手の研究者を興津先生は愛され育てられた。
    そして,本年27日,興津先生が大のお気に入りであった近大前の「ちゃんこ奄美」において,もっとも「まきこまれた」近畿大学経営学部長U先生主催の「興津先生を偲ぶ会」が開かれた。
そこには,多くの「まきこまれた」人々が集い,興津先生の思い出話に花を咲かせた。出席者の多くは,まきこまれた時には若手であったはずだが,今では結構な歳となっている。「おいおい,みんな歳とったなー。次は若いのん,よんどいてんか」。興津先生のそんな声が聞こえるようであった。

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