2011年12月25日日曜日

思い出の先生方(興津先生編:その2)

1223日をむかえて
     昨年の1223日が生前の興津先生にお目にかかった最後の日であった。
    この日,私は,私が部会長を務める日本簿記学会簿記理論研究部会をキャンパスプラザ京都で開催した。興津先生はそこに顧問として参加してくださったのである。
    この部会の立ち上げにも興津先生が関わっている。その基本的コンセプトは先生との車中の会話で始まった。「ふーん。面白いがな。インタビューなー。わしも昔やったで。あれはな・・・」といろいろアイデアをくださった。それで部会長は誰にやっていただくのが良いでしょうかとお尋ねしたところ,「あんたがやったらええんや。なにいうてるねん」と笑い飛ばされた。
    この学会の研究部会は理論・教育・実務と3つある。ちょうど昨年はその3つの部会が2年の研究期間を終了する時期にあたったのだが,当時の部会長さんたちは皆,50代後半以上の大先生たちであった。それに比べて私はまだ若く(学界ではまだこれで通用するはずだが),業績もないのにと躊躇しているとさっさと書類を準備するよう催促をされた。
    意を決して書類を作成しメンバー表を見せると先生は,「わしも委員で入れてんか」といわれた。私は一瞬,何をおっしゃっているのかが理解できなかった。話は前後するが先生は当時,日本簿記学会会長であり,現役の会長が部会の委員をされるなど前代未聞だったからである。
    そこで,ご要請は丁重にお断りし,その代わり顧問として入っていただき,またインタビューも受けていただくことで了解を取り付けたのである。先生はご不満だったようだが最後は引き受けてくださった。
    その日,1223日の午前,先生をいつものご自宅裏の通りまでお迎えに上った。これもいつものとおり,先生の奥様がお見送りに出てくださり,われわれは京都の会場に意気揚々と向かったのである。車中がいつもの笑いに包まれたのはいうまでもない。
    研究会は多くの先生方にお集まりいただき成功裏に終わった。その後はざっくばらんに懇談になったのだが,先生はややお疲れ気味であった。しかし,会が進行し始めるといつもの興津節が炸裂し,若手(しつこいようだがあくまでも学界基準である)の多い部会委員は,大盛り上がりとなった。
  そして最後は先生を皆でお見送り。京の都の大路,烏丸通に乗り出し「お疲れ様でした」の大きな掛け声をかける部会委員たち。車から「ほななー」とそれに応える先生。師走の都の道行く人々はこの光景を何と思ったであろうか。少なくとも大学教員の集まりとは思わなかったはずだ。
    車中の先生に「なんかどこかの親分さんのお見送りみたいでしたね」とちゃちゃを入れると,「あほいいなー」と上機嫌。いい部会やったな,よかったな。これで目処がついたなと,ねぎらってくださった。うれしかった。いつもにも増して四方山話に熱中し,間違わないはずの道さえ間違ってしまう始末であった。
    あと10分もすれば先生のご自宅という頃,先生はいつものとおり奥様にメールを出された。もう着くという合図である。先生は奥様思いであった。その儀式が終わった頃,十八番の話を聞かせていただいた。お題は先年亡くなられたTR先生との思い出である。TR先生は先生の兄弟子であり師匠でもあった。
    先生が近畿大学に転任するに際してのことであるから,もう四半世紀以上も前の話である。TR先生はこの転任話にあまり賛成ではなかったそうだ。その理由もお聞きしたがここでは憚りがあるので割愛する。ただ興津先生がすでに転任を決意しているとわかるとTR先生は,面接はいつかと聞かれ,その日は私も近大まで一緒に行こうといわれたという。
    先生は恐縮したそうだが,TR先生はかまわないといい,結局先生の面接が終わるまで近大近くの喫茶店で待っていてくれたそうである。後にわが国の簿記・会計学界に名を残すお二人である。いろいろなこともあったと仄聞しているが,二人の大先生が,保護者と受験生のごとく,長瀬の駅(近大の最寄り駅)から近大までを並んで歩く姿を想像するだけで感慨深いものがある。
   この話をするときの興津先生はとても幸せそうであった。そして,最後はいつも「寂しいな」とTR先生を偲ばれるのも常であった。
    そうこうする内にご自宅に着き,先生と奥様に年末のご挨拶をした。来年も頑張ろうとお言葉をいただき帰宅した。ここらあたりの印象がとても薄い。もっと最後にお話をしておけばよかったと悔やまれる。しかし,明くる年のお別れなどまったく想像もしていなかったのだから仕方がないと,自分を納得させようとしているが今もって納得しきれていないのである。
  1223日はこれからも当分,興津先生を思い起こしてはため息をつく,そういう日になるだろう。

橋本

0 件のコメント:

コメントを投稿